徳島地方裁判所 昭和51年(行ウ)9号 判決 1981年1月28日
徳島市幸町三丁目五番地
原告
今川康司
右訴訟代理人弁護士
田中達也
徳島市幸町三丁目五四番地
被告
徳島税務署長
佐々正信
右指定代理人
武田正彦
同
岩部承志
同
津川進
同
武田吉雄
同
小林正治
同
清水福夫
同
幸田久
同
大麻義夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立
一 請求の趣旨
1 被告が原告の昭和四六年分所得税について昭和五〇年三月三日付けでなし国税不服審判所長の昭和五一年七月二三日付け裁決で変更された、金一九一万七五〇〇円を税額とする更正処分のうち金一〇二万七〇〇〇円を超える部分、及び重加算税賦課決定処分の全部はこれを取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との裁判を求める。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨の裁判を求める。
第二主張
一 請求原因
1 原告は被告に対して、昭和四七年三月一四日、同四六年分の所得税について別紙(一)(A)欄記載のとおり確定申告した。
2 右申告について、被告は原告に対し、昭和五〇年三月三日付けで別紙(一)(B)欄記載のとおり更正処分及び重加算税賦課決定処分をなした。
3 原告は右各処分について昭和五〇年四月八日被告に対して異議申立てをしたが、被告は同年六月三〇日これを棄却する決定をなした。
4 原告は右各決定に対し昭和五〇年七月二三日国税不服審判所長に対して審査請求をし、同所長は同五一年七月二三日付けで別紙(一)(C)欄記載のとおり右各処分の一部を取り消す裁決をなし、右裁決書の謄本は同年一〇月四日原告に送達された。
5 しかしながら、別紙(一)(C)欄記載の所得金額の認定は同(A)欄記載のそれを超える部分においてなお誤りであり、右決裁で変更された、本件更正処分の納税額金一九一万七五〇〇円のうち申告納税額金一〇二万七〇〇〇円を超える部分及び本件重加算税賦課決定処分は右誤りに基づく違法なものであるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし4の事実は認める。
2 同5は争う。
三 被告の主張
1 原告の昭和四六年分の所得税の課税標準等及び税額等は別紙(一)(C)欄(一)ないし(八)記載のとおりである。
2 このうち雑所得金額の内訳は次のとおりである。
(一) 原告は、昭和四六年七月三一日、訴外勝浦徹、尾崎芳治、真木長俊との共有(持分各四分の一)に係る別紙(三)物件目録記載の甲山(以下「甲山」という。)一〇筆の山林のうち、(ヌ)の山林を除いた九筆を右共有者らと共に訴外遠藤音市に対し、代金七〇〇〇万円で売却し、その四分の一である金一七五〇万円の収入を得た。
(二) 原告は、昭和四六年中に、前記共有者らとの共有(持分各四分の一)に係る別紙(三)物件目録記載の乙山の山林(以下「乙山」という。)を右共有者らと共に、代金五〇〇万円で他に売却し、その四分の一である金一二五万円の収入を得た。
(三) 原告は、昭和四六年七月一三日訴外大久保祐雄に対し、金一〇〇〇万円を利息金二五万円天引のうえ貸付け、同人から同年九月六日に金六五〇万円、同年一一月五日に金三五〇万円の弁済を受けることにより、同年中に右受取利息金二五万円の収入を得た。
(四) 前記(一)ないし(三)の売買等により原告の取得した雑所得金額は、別紙(二)計算表のとおり、金三八八万九三五〇円である。
3 重加算税については次のとおりである。
(一) 原告は、前記2(一)記載のとおり甲山のうち(ヌ)の山林を除いた九筆を訴外遠藤音市に対し代金七〇〇〇万円で売却したにもかかわらず、訴外橋本隆雄に代金二〇〇〇万円で売却したとする虚偽の売買契約書を作成し、課税標準の基礎となるべき事実を仮装、隠ぺいし、これに基づき確定申告書を提出した。
(二) 原告は、その有する架空名儀預金の中から、前記2(三)記載のとおり貸付けをなし利息金二五万円の収入を得たにもかかわらず、架空名義預金から右貸付金が出ているのを利用して、右貸付金一〇〇〇万円及び受取利息二五万円を秘匿し、課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、これに基づき確定申告書を提出した。
(三) 前記(一)、(二)の仮装、隠ぺい行為に基づく重加算税の額の計算の基礎となるべき税額を国税通則法六八条一項等の規定により計算すると、別紙(四)計算表のとおり金八九万円となるから、右重加算税額は別紙(一)(C)欄の(九)記載のとおりである。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1のうち別紙(一)(C)欄に係る(一)総所得金額内訳の雑所得金額は否認し、右雑所得金額の存在を前提とする(一)総所得金額、課税される所得金額の(四)総所得金額、(六)算出税額及びその内訳の(四)に対する税額、(八)申告納税額も否認し、その余の事実は認める。
2 同2の(一)のうち、原告が甲山を被告主張の共有者ら三名と共に持分各四分の一で共有していたことは認めるが、その余の事実は否認する。同(二)、(三)の事実は認める。同(四)でいう別紙(二)の雑所得金額計算表のうち、(一)収入合計額の内訳の乙山売却額、受取利息、(二)原価等の金額(内訳も含む。但し金二一一三万二〇〇〇円は(ヌ)の山林を含めた甲山の取得金額であり、金一五五〇万円は(ヌ)の山林を含めた甲山、乙山の造成費である。)、(三)譲渡経費の内訳の名義借科(橋本隆雄)の額は認めるが、その余の事実は否認する。
原告が共有者らと共に甲山を売却したのは、昭和四六年六月三日代金三二〇〇万円で訴外近藤貞吉に対してである。なお、その際甲山一〇筆のうち下段の角二〇〇坪を除外し(甲第二号証の特約条項欄の第二項参照。)、移転登記のときに右二〇〇坪に相当する土地として甲山一〇筆のうち(ヌ)の山林を当て、これを除いて移転登記をしたものである。右二〇〇坪を除いた理由は、甲山一〇筆の山林中に造園業を営む訴外鈴江彌太郎が植樹しており、その植樹部分につき登記簿上は表示されていないが所有権を有する旨主張するので、原告を含む共有者四名と右鈴江が協議のうえ同人のために植樹部分の明渡しの代償として無償で右二〇〇坪を渡し登記簿上は(ヌ)の山林を移転登記する旨合意した。現在、右鈴江への右合意の履行はできていないが、それは買主の右近藤貞吉から訴外遠藤音市、更に同生活協同組合徳島県勤労者住宅協会(以下「勤住協」という。)に甲山が各々転売されるときに、右二〇〇坪除外の説明が不十分で、勤住協は右二〇〇坪を含めて買取ったとの立場でいるため原告を含めた共有者四名と勤住協と協議中だからである。いずれにしても、(ヌ)の山林に相当する二〇〇坪は、無償で右鈴江に渡すものであるから所得の計算関係に影響しない。
以上のとおり、(ヌ)の山林を除いた甲山の売却額は金三二〇〇万円であり、原告はその四分の一の金八〇〇万円の収入を得たのであるが、結局甲山一〇筆を譲渡することにより共有者四名が得た収入は金三二〇〇万円(原告一名分は金八〇〇万円)である。また、被告主張の訴外近藤貞吉、近藤精一に対する仲介料は存在せず、結局原告の雑所得金額は、右八〇〇万円に前記乙山売却による収入及び受取利息収入を加えた合計収入九五〇万円から、必要経費一〇一一万〇六五〇円(別紙(二)計算表の(四)必要経費合計六〇四四万二六〇〇円から右仲介料二〇〇〇万円を差引いた四〇四四万二六〇〇円を共有者の数四で除した額)を差引いた、金六一万〇六五〇円の損失である。
3 同3の(一)、(三)の事実は否認する。同(二)のうち、金一〇〇〇万円を貸付け、受取利息二五万円の収入を得たことは認めるが、課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしたことは否認する。
第三証拠
一 原告
1 甲第一号証の一、二、第二、三号証
2 証人近藤貞吉、同近藤音市、原告本人
3 乙第一号証、第二号証の一、二、第八号証の二、第一三号証の一ないし五、第一四号証の一、二の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。
二 被告
1 乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一の一、二、第四号証の二、第五号証、第六号証の一ないし五の各一、二、第七、八号証の各一、二、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし一三、第一一号証の一ないし一〇、第一二号証の一、第一二号証の二の一、二、第一三号証の一ないし五、第一四号証の一、二
2 証人白川忠晴、同和泉康夫
3 甲第二号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。
理由
一 請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがなく、被告の主張1のうち別紙(一)(C)欄に係る(一)総所得金額内訳の雑所得金額(及びその存在を前提とする(一)総所得金額、課税される所得金額の(四)総所得金額、(六)算出税額及びその内訳の(四)に対する税額、(八)申告納税額)を除く部分も当事者間に争いがない。そして雑所得金額の内訳に関する被告の主張2の(二)及び(三)の事実も当事者間に争いがない。
二 被告の主張2(一)のうち原告が甲山を被告主張の共有者ら三名と共に持分各四分の一で共有していたことは当事者間に争いがないので、(ヌ)の山林を除く甲山の売却先及び売却代金について判断する。
証人白川忠晴の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証、第二号証の一、二、成立に争いのない乙第三号証、第四号証の一の一、二、同号証の二、第五号証、第六号証の一ないし五の各一、二、第九号証の一、二、第一一号証の一ないし九、証人遠藤音市、同白川忠晴、同近藤貞吉(後記措信しない部分を除く。)の各証言及び原告本人の供述(後記措信しない部分を除く。)によれば、(ヌ)の山林を除く甲山は登記簿上昭和四六年七月三一日売買を原因として同日原告外右共有者らから遠藤音市(以下「遠藤」という。)への所有権移転登記が経由されていること、遠藤に右土地売買の話が持ちかけられたのは同月二九日近藤貞吉(以下「近藤」という。)によってであるが、近藤はその際「右土地は大勢の者が持っている土地であるからその取引は即金によることを要する。」旨のことを遠藤に述べており、自己が右共有者らから買い受けて転売する物件であるということは一言も述べておらず、むしろ右土地が共有に係る土地である旨示唆していること、遠藤は近藤の現地案内等により右土地を金七〇〇〇円で買い受けることとし同月三一日が即金取引の日と定められたが、右代金の受け渡しは同日原告方でなされ、同所に原告、遠藤、近藤らが集まり、遠藤が用意した七〇〇〇万円の代金(銀行振出の自己宛小切手額面一〇〇〇万円五枚と現金二〇〇〇万円)が遠藤の取引銀行の行員から原告に手渡され、原告がこれを受け取って一旦別室に下がった後原告から遠藤に領収書(但し、売買代金を五〇〇〇万円に圧縮した仮空のもの)が交付されたこと、右受け渡し前に同日既に右所有権移転登記が了されていて同日遠藤は右登記済みの権利書を原告から受領し同日をもって右取引は完了となったのであるが、原告は右取引に際し遠藤に、右土地が既に近藤に売り渡されていて近藤がこれを遠藤に売り渡すものであるということは何ら述べていないこと、従って遠藤や右取引に立会した右銀行員は、右取引が原告を売主、遠藤を買主としてなされたものであると認識していたこと、近藤はその兄近藤精一と共に徳島土地有限会社の名で不動産業を営んでいる者であるが、その営業はおおむね仲介業を専門とするものであること、以上の事実が認められ、証人近藤の証言及び原告本人の供述のうち右認定に反する部分は措信し難い。
一方、証人近藤及び原告本人は、「右土地は原告を含む共有者らが先に近藤に代金三二〇〇万円で売却し、右七月三一日の取引は近藤が遠藤に代金七〇〇〇万円で転売したものであるから、右取引により原告ら共有者は三二〇〇万円を取得したのみであり、その余の三八〇〇万円は近藤が転売差益として取得したのみであり、その余の三八〇〇万円は近藤が転売差益として取得している。」旨証言ないしは供述するが、前出乙第五号証、第六号証の一ないし五の各一、二、成立に争いのない乙第九号証の一、四、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一三号証の一ないし四(四については後記採用しない部分を除く。)証人白川忠晴の証言によれば、右七〇〇〇万円のうち前記小切手二枚二〇〇〇万円が近藤と、右取引に関する仮装契約書の作成に関与して同人に協力した近藤精一とそれぞれ一枚一〇〇〇万円づつ取得されている(乙第一三号証の四のうち、二〇〇〇万円は原告から借用したものであるとの部分は採用できない。)ことが認められるのみであって、右近藤、原告の証言、供述の他に近藤が三八〇〇万円を取得したことを認めるに足りる証拠はないうえ、三八〇〇万円の使途に関する近藤の証言は極めてあいまいであり到底措信できないことに照らすと、右近藤、原告の証言、供述も直ちには措信し難い。しかも前掲証拠及び成立に争いのない乙第九号証の二、三、第一〇号証の一ないし一三、甲第三号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一三号証の一、五、証人和泉康夫の証言によれば、原告は右七〇〇〇万円のうち前記小切手三枚三〇〇〇万円を用いて右取引の日である昭和四六年七月三一日に、甲山に関して先に銀行から借用していた二〇〇〇万円とその利息四八万三九四五円の返済をなすと共にその残額九五一万余円に現金二四八万余円を加えた一二〇〇万円で銀行振出の自己宛小切手六枚を作成させて右一二〇〇万円を原告を含む前記共有者らの間で分配取得したこと、右共有者のうち真木長俊は国税調査担当者に対し、(右分配とは別に)甲山売却代金の分配金として五〇〇万円を原告から受領した旨述べていること、右銀行からの借金二〇〇〇万円は、借主名義は原告一人となっているが、原告を含む共有者全員の利益のために借り入れ、かつ、使用されたものであること、以上の事実が認められる(乙第九号証の四のうち右認定反する記載内容は採用できない。)ところ、右現金二四八万余円及び五〇〇万円が遠藤から原告が受領した七〇〇〇万円から支出されたものであることを直接認めるに足りる証拠はないが、他にその出所があったことを窺わせる証拠もないのであるから、右事実により、右計七四八万余円は右七〇〇〇万円から支出されたものと推認するのが相当であり、これによれば原告及び右共有者らは右七〇〇〇万円のうち少なくとも三七四八万余円を取得しているといわなければならない。従って、原告ら共有者が三二〇〇万円しか取得していないことを内容とする前記証人近藤、原告本人の供述はこの点からも措信し難い。むしろ、前示のとおり原告が遠藤から七〇〇〇万円を受領していること、そのうち二〇〇〇万円は近藤とその兄近藤精一の手に入っているがその余の分についてはこれが同人らにより取得されたとは認められないことから考えるならば、その差額五〇〇〇万円は原告側が取得したものと推認するのが相当である。
また、証人近藤及び原告本人は、近藤が前記土地を買い受けたことの根拠としてこれに沿う甲第二号証(売買契約書)を挙げるが、証人白川忠晴の証言によれば、右契約書が国税調査の際被告側に提出されたときには同契約書には収入印紙が貼付されていなかった(少なくとも昭和五〇年一一月頃までは貼付されていなかった)のに、後になってこれを貼付したものが当裁判所に提出されていること(この点は原告本人も自認する供述をなしている。)、同契約書には「解約」という字が書かれてこれを消した跡があったことが認められるほか、同契約書ではかなり重要な部分と考えられる特約条項欄の記載者が証人近藤の証言と原告本人の供述とではくい違っていること、証人近藤及び原告本人は、右契約を圧縮仮装するために乙第七号証の二の売買契約書(売主を原告外四名、買主を橋本隆雄、代金を二〇〇〇万円とするもの)を作成した旨証言、供述するが、右二つの契約書の作成時期、売主の人数、対象物件の筆数の違いに関するその証言、供述内容はにわかには首肯し難く、右乙第七号証の二の契約書が仮装のものだからといって甲第二号証の契約書が真実のものであるとは言い得ないこと、更に証人白川忠晴の証言によれば、原告は右白川(国税調査担当者)の調査に対し「近藤に売却した、あとは近藤に聞いてくれ。」と言うのみでそれ以上のことは語ろうとせず、原告、近藤間の事柄を秘匿する姿勢を示していたことが認められること等に照らすと、はたして甲第二号証によって原告主張のとおり原告ら共有者、近藤間に甲山の売買がなされたか甚だ疑問であり、そもそも前示七〇〇〇万円の配分取得状況及び前記七月三一日の取引に関する前認定の状況等に照らしても右売買があったことを認めるには足りない。証人白川忠晴の証言及び原告本人の供述によれば、甲第二号証の売買契約書中の代金三二〇〇万円という金額が昭和四六年当時の甲山の売買代金として当を失したものではないことが認められるが、以上挙示したところに照らせば右事実も右売買がなされたことの根拠とするには足りない。
以上の事実関係を総合するならば、(ヌ)の山林を除く甲山は、被告主張のとおり昭和四六年七月三一日に原告及び前記共有者らが遠藤に対し代金七〇〇〇万円で売却したものと認めるのが相当であり、原告は右売買により共有持分四分の一に対応する一七五〇万円の収入を得たことが認められる。右認定に反する証拠については既に説示したとおり措信できないものであり、その他これを覆すに足りる証拠はない。
なお、原告は甲山の売却に際し(ヌ)の山林を除いた趣旨につき主張するが、いずれにせよ(ヌ)の山林を除いた甲山が遠藤に売却されたことは原告もこれを認める趣旨であると解されるから、右主張は右認定に反するものではない。
従って原告の雑所得に関する収入合計額は被告主張の別紙(二)の(一)欄記載のとおり一九〇〇万円であると認められる。
三 次に必要経費について検討する。
別紙(二)の(二)原価等の金額欄のうち西名東乙山取得金額及び勤住協支払(通路)分については当事者間に争いがない。甲山に関する取得金額及び両山造成費について、原告はそれらが(ヌ)の山林を含むものであると主張するが、右主張に字義どおり従えば右各経費額は面積按分等により(ヌ)山林に対応する分だけ減少しその分所得額が逆に増加するという原告に不利益な結果になること、また右主張のなされる根拠が先に触れた甲山売却に際して(ヌ)の山林を除いた趣旨に関する原告の主張、すなわち、(ヌ)の山林に対応する二〇〇坪は他人に無償で譲渡するものであるから所得の計算関係には影響しない((ヌ)の山林からは所得が生じない。)という主張との関連にあると解されることに照らすと、右主張は、(ヌ)の山林を除く甲山の売却による収入金額に対する経費として被告主張の金額を差し引くことは認容する趣旨のものであると解されるから、右各経費額についても争いがないものと解される。
別紙(二)の(三)譲渡経費のうち名義借料(橋本隆雄)については当事者間に争いがない。仲介料について判断するに、(ヌ)の山林を除く甲山の売買が原告、遠藤間でなされたものであること、近藤及びその兄近藤精一に各一〇〇〇万円の金が右売買代金の中から供せられていることは前判示のとおりであり、右売買につき右両名がとった行動、右両名の関係等前判示の事情、更に証人白川忠晴の証言及び原告本人の供述によれば右売買代金の七〇〇〇万円という金額は原告の予想していたよりもかなり高額なものであり右金額で遠藤との売買がなされたについては近藤の働きによることが大であると認められることをも併せ考えれば、右各一〇〇〇万円計二〇〇〇万円は右売買の仲介料と認め、譲渡経費に含めることも不当なものとまではいえない。
従って必要経費合計は別紙(二)の(四)欄上段記載のとおりであると認められるところ、右は原告を含む四名共有(持分各四分の一)の土地に関するものであるから、原告一人について按分した必要経費は同欄下段記載のとおり一五一一万〇六五〇円であると認められる。
四 以上によれば、原告の雑所得金額は被告主張のとおり三八八万九三五〇円であると認められるから、前記一の争いのない事実も加えると、原告の申告すべき適正な納税額は別紙(一)(C)欄の(八)記載のとおり一九一万七五〇〇円と認められる。
従って本訴請求のうち更正処分の取消を求める部分は理由がない。
五 重加算税について検討する。
まず、甲山((ヌ)の山林を除く。以下同じ。)売買の関係について検討するに、成立に争いのない乙第一二号証の一、同号証の二の一、二、証人白川忠晴の証言によれば、原告は昭和四六年分所得税の確定申告をする前に、不動産譲渡内容に関する被告からの照会に対して、甲山については、売却先は橋本隆雄で代金は二〇〇〇万円であり、必要経費が二二二〇万八〇〇〇円であるから譲渡所得は二二〇万八〇〇〇円(原告一人についてはその四分の一の五五万二〇〇〇円)の損失である旨の回答をなし、この回答内容に基づき右申告をしたものであることが認められる。なお、原告は右回答で右所得(損失)を譲渡所得としており、被告は甲山売却による所得を雑所得として把握しているが、原告は本件においてこれを雑所得と把握することについては争っておらず(この点は乙山売却による所得についても同様である。)、右確定申告においては、譲渡所得(分離課税分を除く。)、雑所得とも所得額なしとして申告されているのであるから、右回答を雑所得に関するものと認めるに妨げはない。
ところで、原告が甲山の売買に関し近藤と意思を通じて、橋本隆雄に代金二〇〇〇万円で売却したとする虚偽の売買契約書を作出したものであることは、原告本人の供述、証人近藤の証言及び成立に争いのない乙第七号証の二により明らかである。原告本人は、右契約書は近藤との前記三二〇〇万円での売買を圧縮仮装するために作られたものである旨供述するが、これが措信するに足りないことは前記二で判示したところにより明らかであり、むしろ前記二判示の事実関係に、証人遠藤、同近藤の各証言により真正に成立した(但し、内容は虚偽である。)ことが認められる乙第八号証の二、右各証言及び原告本人の供述を総合すれば、右二〇〇〇万円の売買契約書は、原告の意を受けて近藤が作出したもう一通の虚偽の売買契約書(橋本隆雄が遠藤に甲山を五〇〇〇万円で転売した旨のもの)と相まって、既に認定した原告ら共有者、遠藤間の七〇〇〇万円での売買を隠ぺいするために仮装のものとして作られたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。従って、原告の被告に対する前記回答が、右隠ぺい、仮装に基づくものであることは明らかである。
次に、受取利息の関係について検討するに、被告の主張2(三)の事実は当事者間に争いがないところ、証人白川忠晴の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は、その妻の父である川人久吉の名義を使用した架空名儀預金(仮名預金)を使用して一〇〇〇万円(利息天引して九七五万円。うち二五万円は現金で用意したもの。)の貸付を行なったこと、それにもかかわらず前記確定申告において右貸付けによる受取利息二五万円の申告をしなかったことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右のような架空名義預金利用による所得を申告しないことは、特段の事情がない限り、課税標準の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいに該当するものと認めるのが相当であるところ、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
以上の事実によれば、原告は、昭和四六年分所得税に関し、課税標準の計算の基礎となるべき事実を、甲山については隠ぺい及び仮装し、受取利息については隠ぺいし、これら隠ぺい、仮装したところに基づき確定申告書を提出したことが認められるから、これに基づく重加算税の額の計算の基礎となるべき税額は、別紙(四)計算表のとおり八九万円となる。なお、乙山売却による所得については、その収入、必要経費とも当事者間に争いがない(被告は右所得につき隠ぺい又は仮装ありとの主張はしていない。)から、右所得は隠ぺい、仮装されていないものとして扱うのが相当であり、国税通則法六八条一項、同法施行令二八条一項により右基礎となるべき税額からの控除額の有無が問題となる。そこで検討するに、別紙(二)の(二)原価等の金額欄の各経費額(前述のとおり当事者間に争いがない。)のうち乙山に関するものは、その取得金額二〇一万二四〇〇円、甲、乙、両山造成費中の一三五万余円(これは全体の一五五〇万円を別紙(三)記載の地積に基づき按分したものであるが、他に具体的配分方法を認めるに足りる証拠がないから、右按分法によるのが相当であると認める。)であり、勤住協支払(通路)分は、原告本人の供述及び成立に争いのない乙第一号証の二により乙山に関係ないものと認められるから、乙山売却による所得額はその収入額五〇〇万円から右経費を差引いた一六三万余円で、原告一人についてはその四分の一の四〇万余円である(右甲山に(ヌ)の山林を含めるとしても同様の計算により原告一人についての所得額は四一万余円である。)と認められる。しかし右所得金額を、原告が前記隠ぺい、仮装したところに基づく他の雑所得金額(前示のとおり甲山につき五五万二〇〇〇円の損失、受取利息につき零円)と通算すると雑所得全体としては原告の確定申告と同じく零となるから、前記基礎となるべき税額中に乙山売買による所得に基づくものはないことになる。従って右法令所定の控除額はない。
すると、重加算税額は別紙(一)(C)欄の(九)記載のとおり二六万七〇〇〇円となるから、本訴請求のうち重加算税賦課決定処分の取消を求める部分も理由がない。
六 以上の次第で原告の請求は全部理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判最裁判官 岩佐善已 裁判官 横山敏夫 裁判官 山田博)
右は正本である
昭和五六年一月二八日
徳島地方裁判所
裁判所書記官 大和泰敏
別紙(一)
<省略>
別紙(二) 雑所得金額計算表
<省略>
別紙(三) 物件目録
甲山
(イ) 徳島市加茂名町西名東山一番一一九 山林 八、四六七平方メートル
(ロ) 〃 一番一六九 〃 二一四 〃
(ハ) 〃 一番一七一 〃 〃 〃
(ニ) 〃 一番一七七 〃 四二九 〃
(ホ) 〃 一番一六五 〃 二一四 〃
(ヘ) 〃 一番一六六 〃 〃 〃
(ト) 〃 一番 九八 〃 〃 〃
(チ) 〃 一番一七五 〃 〃 〃
(リ) 〃 一番一七八 〃 〃 〃
(ヌ) 〃 一番一七三 〃 〃 〃
乙山
徳島市加茂名町西名東山一番二四二 山林 九九三平方メートル
以上
別紙(四) 重加算税対象額計算表
<省略>